いつか夜を招き 星空をつくろう





手のひらの幸せ



秋の夜長。先ほどまで晴れていたのに、いきなりしとしとと降りだした雨に、 ヴィクトリアは尻尾を垂らして窓の外を見た。 秋は天気が変わりやすい。 それを、女心のようだと言ったのは誰だっただろう。 こんなにも、ずっと、ずっと彼のことが好きなのに。 このキモチが、この空のようにコロリと変わるはずがない。 ゴミ捨て場はしんと静まりかえり、夜もふけてくる時間。 初めにシラバブの寝息が聞こえてくる。 小さく教会の一室から、マンカスたちが話す声が聞こえる。 どうやら、今日もタガーは別の場所で寝ているようだ。 雨の日にはみんなで教会、と話したのに、絶対来ない。 あまのじゃくな彼のことだ。きっと、雨に降られながら、どこかに寝そべっている。 きまぐれなタガーのことなど、今は関係ない。 問題は、彼がいないことだ。 ミストも、教会にいない。 いつもなら、ちょろちょろと教会の中を走り回っているマジック猫は、今日はいない。 どうやら、タガーと一緒のようなのだ。 ミストも、タガーと一緒に雨に降られているらしい。マンカスがぼやいていた。 「・・・風邪をひくじゃない、ばか」 窓の外に向かって、ミストがいるわけでもないのに、ヴィクは呟いた。 その声に、隣で寝ていたランペルが目を覚ました。 「どうしたの、ヴィク・・・寝ないの?」 「あ、起こしちゃったかしら・・・ごめんなさい、まだ寝る気分じゃないの」 目を擦りながら、ランペルは首を傾げた。 しばらく考え込んでいたが、あぁ、と思いついたように声を上げた。 「そうよね、ミストがいないのよね、今日は」 コソ泥猫の片割れは、ニッコリと笑って、毛布を身体に巻き付けなおした。 くるりと足の先まで毛布で隠すと、ランペルはマンゴのところで寝ると言い出した。 「でも、ミストが来るなんて期待してないし・・・いいのよ、いても」 「い〜のいいのっ。あたしも、マンゴとちょっと話ししなくちゃ!明日のために」 ふふっと笑って、ランペルはスキップした。 また泥棒?と、ヴィクが呆れた顔をすると、彼女はくるりと1回転し、両手を広げた。 「あら、馬鹿にしてるの!?明日はね、こ〜んっなおっきな家って決めてるのよ!」 目を輝かせて話すランペルティーザ。ヴィクはいつもの優しい表情で聞き手に回る。 「あたし、あの家にある大きなガラス玉がほしいの! あの家のご主人はいらないって言ってるらしいんだけど、 いつまでたっても捨ててくれないんだもの!取りに行くしかないでしょ!?」 そうね、とヴィクが相槌を打つ。ランペルはその答えに満足したのか、 そそくさとマンゴの寝ている部屋へと足を運んだ。 頑張ってね、と、ヴィクに声をかけて。 ランペルを見送って、ヴィクは思った。 わたしも、あんなに夢中になれるものがあればいいのに。 でも、彼女はきっとガラス玉よりもお宝よりも、パートナーのマンゴが大好きなのよね。 ランペルはいつもタガーを追いかけているけれど、結局本命はマンゴなんだわ。 わたしも、あんなに夢中になれるものが、他にあればよかった。 ミストはいつも楽しそうで、みんなのことが大好き。 自分もその みんな の一人で、きっと恋の対象なんかになっちゃいない。 自分に向ける笑顔よりも、むしろタガーといるときのほうがいい顔をする。 そんなミストが、今日ここへ来てくれるなんて、夢見ちゃいけない。 そう、夢なんて見るものじゃないのよ。 そう決心して、白い毛布にもぐりこもうとすると、窓をたたく音。 その音が聞こえた瞬間に、ヴィクは飛び上がった。 だめよ。期待しちゃだめ。きっと、マンカスだったとかそういうオチよ。 夢を見ないって、決めたもの。 窓をコン、コン、コン、と叩く音が聞こえたが、ヴィクは聞こえないフリをした。 「ヴィク?ヴィクいないの?」 その声は、確かに彼だった。 オチもなにもなかった。そう、マジックを操る、彼だ。 「ミスト・・・?」 「そうだよ、他にいるもんか」 ミストが、来た。 雨の降る中、あたしに会いに来た。 窓の外から聞こえる、ミストの優しい声を聴き、ヴィクは急いで窓を開けた。 「あー、もう!ちょっとタガーに付き合ってたら、すぐコレだ!」 「何してたの?」 「タガーが、明日マンカスに怒られることを悟っちゃてさ・・・、 どう言い訳するかを、考えさせられたんだよ。 それで帰ってきたら、このありさまだよ。鍵がかかってる」 びしゃんこに濡れたミストを部屋に上げて、ヴィクはタオルを用意した。 その様子を見て、ミストが首を振った。 「だめだよ、そんなことしてる暇なんてないよ!」 ランペルが見せた輝きを、ミストもまた、瞳にきらきらさせた。 ぐいぐいとヴィクの手首を引っ張る。 「どういうこと、ミスト?」 「だめだめ!部屋なんかにいられないってば!」 詳しい理由を言わずに、ミストはとうとう、ヴィクの手を引いて外へ出た。 「雨、濡れるわ・・・」 「関係ないさ!来て!」 女の子相応の悩みも、ミストの輝きが振り払い、 ヴィクは言われるがままに外へ出た。 そこには、雨のふりつすづけながらも、紺色のきれいな空。 「ホラッ!」 ミストが、いつの間にか手のひらに集めた数々の星を、夜空に広げた。 「ね、もったいないでしょ、コレを見ないなんて!」 「そうね」 いつか いつかきっと あなたが分かってくれますように                        END **ヴィク→ミストです。優しいヴィクと、可愛いランペルのペアは大好きです。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送