やさしさ たかく



ぽかん、と浮いた丸い月。
頭上から見下ろされているみたいだ
風船のように丸くなったお月さんは、いつまでたって
も降りてこようとしない。

夜空を見上げるのは、ジェリクルの中の一匹。
我らがマジシャンミストフェリーズは、恋しいものを
みるように、優しい目で月を眺めていた。横を通った
マンカスも、バブも、スキンブルも、まったく気がつ
いていなかった。

もちろんミスト自体、彼らが横を通ったことなど、知
りはしなかったのだが。

彼はまるで、魅入っているよう。

ゴミ山の上で足を組んで座っている、その黒猫を見つ
けたのは、気まぐれな雄猫だった。

今日はどんな気分でか、周りにファンをはべらせてい
る。

「それで、あいつの頭を殴ってやったんだよ!」
「いや〜ん、タガー素敵〜!」
「強いのね、タガー!」

どうやら、自慢話をする気分だったようだ。
自分の武勇伝をつらつら並べ、雌猫の肩に手を回して
話している。

その時だ。ゴミ山の上に、子猫がいるのを見た。
タガーは雌猫たちに、気分が変わったから、今日はこ
こまでだ。と言って解散させた。いつものことなので、
メスたちはなんの文句も言わずさよならタガー、と挨
拶をして去って行った。

「よぉ、ミスト」

手を額のあたりまで上げて、ミストの背中に話しかけ
る。その背中は、タガーの声が聞こえた瞬間、くる、
と丸まってしまった。

「なに、どうしたんだよ」
「あっち行ってよ・・・」

真っ黒な長い尻尾が、邪魔だよ、とでも言うようにゆ
らゆら揺れている。どうやら、センチメンタルという
やつらしい。タガーはそれを悟ったが、気にせずヒョ
イと横に腰を落ち着けた。

「あの月がよ、消えたら暗くなるな、夜は」

月をさして、タガーがニヒルに笑う。ミストの方に手
を回して、自分の弟を慰めるように彼の頭に頬を置い
た。

「お前のマジックでやってみろよ」
「無理だよ。月なんて、消せやしないよ」

ミストは、タガーを拒まずしゅんと俯いた。

「じゃあ、マキャにでも頼んで奪ってもらうか?」
「やめてよ。マンカスが可哀相」

冗談だ、ばか。タガーがへっへっへ、と笑う。ミスト
の肩をポンポン、と叩いて、月に手をかぶせた。

ぎゅ、と、そのまま拳をつくると、月は綺麗にタガー
の手に隠れた。

「こうやって隠しちまえば、おまえはもう辛くなんねぇ
のか、ミストフェリーズ」
「・・・・・・わからない」

「優しいことなんて言えないけどさー、頑張れよ」
「・・・充分優しい言葉って言わない?それ」
「あ・・・そうか?」

ミストはプッ、と吹き出し、タガーに馬鹿、といつもの
ように言い放った。いつもの反抗も、お返しもなしに、
タガーはそのミストを見て、へへっ、と笑った。

「なんだ・・・簡単だね」

ミストが指先を光らせ、空へかざす。それを、ふわ、と
移動させて、タガーの顔の前に持っていく。

「こうして、君がいてくれて、そこに空があればいいん
だ。光があれば、いいんだ」

キュ、と光らせた指をにぎり、タガーがその指にガブリ
と噛みついた。ミストは痛いよ、と反対の手で頬をはた
き、口を開かせ、指を引っこ抜いた。

「歯形ついた」

ミストが頬を膨らませて、仏頂面でタガーを睨んだ。




君がいるだけで 優しさを感じる
そんな素敵な仲じゃないけれど


君には負けないと思うだけで
またひとつ 高く飛べる


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