夜の鼓動





彼は言った 夜は生きていると。
地球は西から東へとまわり、
星は東から西へとまわる。
太陽も、月も、じっくりと確実に
まわっているのだ。


彼は言った 人も猫もみな同じだと。
ここに息づき、人から産まれ、
恋をし、愛を持つのだと。
優しさも、憧れも、全てありありと
感じているのだ。



僕は毎晩彼のところへ行った。
薄暗い教会には、星空を見渡せるほど
大きな窓が付いていた。
そこを開け、彼と僕とで毎日話した。


「ねえ、デュト様・・・あれは?」
「あれはカシオペアじゃよ、ミスト」
「ふぅん・・・デュト様、カシオペアも生きているの?」


彼は笑う。
いくつも質問をする僕を見て、
優しく笑う。
そしていつも とても楽しそうに
星の名前を言い、答えをくれた。


「ああ、生きているさ。聞こえないかい、音が」
「音?」
「夜の鼓動は、いつも美しいものじゃよ・・・」




生きている、鼓動がする、
音が 聞こえる。




「デュト様はなんだって分かるんだね」
「そうでもない」
「違うの?」


彼はまた微笑み、僕の頭をひとつ撫でて、
いつもの、遠くを見るような目をした。


「わしは、自分のことさえわからん」
「デュト様はとても良い人だよ」
「有難うミスト。じゃあ、分かるかね。
何故わしが、天上へ昇る猫を決めるのか」
「・・・・・・分からない。何故?」
「わしにもわからん。どうしたって、わからんのだ」


彼は、天を指して、また口を開いた。


「あそこはどんな世界だろうなぁ、ミストよ」
「・・・ベラおばさんが帰ってくれば、分かるよ」
「お前は本当に面白い子だ。
そうだな、ベラにじっくり聞くとしようかの」


彼はそう言うとゆっくりと腰を上げ、窓を閉める。
いつもより少し軽いように見える足取りで、
前の段のところに腰をかける。


「さ、もう寝なさい。朝が起き出す前に」
「はーい。おやすみなさい、デュト様」
「あぁ、おやすみ」



彼は言った 夜は生きていると


彼は言った 人も猫もみな同じだと


夜の鼓動は 今日も優しい




FIN


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